皆さん、こんばんは。ねこらいたーです(= ̄ω ̄=)
前回に引き続き”go off”についてですが、今回扱う疑問は「”go off”の意味が『(アラームが)鳴り止む』とならないのはなぜか?」です。
なかなか難しい問題ではありますが、比喩的視点と歴史的視点から2通りの説明をご紹介しようと思います。
では、本編へどうぞ。
- 前回のおさらい
- [疑問その2] ”off”なのに「鳴り止む」ではないのはなぜ?
- 考え方①: メトニミーで考えよう
- 考え方②: 歴史的に考えよう
- 【補足1】「音を発する」系と「光を消す」系のイメージの整理
- 【補足2】句動詞における副詞と前置詞の関係
- 編集後記
前回のおさらい
1)The alarm clock went off at 7.
「7時に目覚まし時計が鳴った」
前回は、1)のような”go off”の用法に対して、多くの人が次の2つの疑問を持つのではないかというところから話を始めました。
[疑問その1]
"go off"の文字通りの意味は「離れていく」だけど、この場合「何が」「どこから」離れていくの?「鳴る」との関係は?
[疑問その2]
”off”って書いてあるのに、どうして「鳴り止む」ではなくて「鳴る」の意味になるの?
そして、このうち[疑問その1]について、「換喩(メトニミー)」という比喩の観点から解説したところで前回は終わりましたね。その主な内容は、以下3つでした。
・1)の”go off”に対する本当の主語は「アラーム音」(=alarm sound)
・1)の”go off”の意味表記は「鳴る」ではなく「発せられる」とした方が正確
・”go off”と”give off”は意味的に自動詞と他動詞の関係にある
これらの詳細については、前回の記事を参照ください↓
[疑問その2] ”off”なのに「鳴り止む」ではないのはなぜ?
今回の内容は、先ほど言ったように[疑問その2]についてです。
[疑問その2]
”off”って書いてあるのに、どうして「鳴り止む」ではなくて「鳴る」の意味になるの?
おそらく、このような疑問を持つのは、以下のような表現に見覚えがあるからではないでしょうか。
2)Switch off the alarm!
「アラーム止めて!」
3)All the lights suddenly went off.
「全ての照明が突然消えた」
特に3)における”go off”は「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」という意味ですから、「どうして照明だとこの意味になるのに、アラーム音に対してだけ『鳴り止む』の意味にならないのか、納得がいかない・・・」と思われるかもしれませんね。
そこで今回は、例文1)と例文3)を特に比較しながら2通りの説明をご紹介していきたいと思います。
考え方①: メトニミーで考えよう
この考え方は前回お話ししたメトニミーを使ったもので、話としては単純です。 一言でいうと、
元々想定している主語が1)と3)とで異なるので、”go off”の意味も違ったものになる
ということになるでしょうか。
以下、順を追って説明します。
1)The alarm clock went off at 7.
「7時に目覚まし時計が鳴った」
3)All the lights suddenly went off.
「全ての照明が突然消えた」
前回の話では、「全体と部分」のメトニミーという観点から、1)における"go off"の本当の主語は”clock”ではなく”alarm sound”だという説明をしました。
これと同様に考えれば、3)の”go off”に対する本当の主語は「照明そのもの」ではなく「電源スイッチ」だと考えるのが最も自然です。つまり、3)においても「全体」を指す”lights”がその「部分」である"power switch"を間接的に表すメトニミーが働いているわけですね。
このようにメトニミーの観点でみると、1)と3)とでは”go off”の本当の主語として想定しているものが異なっていることがよく分かってきます。そして、だからこそその意味も当然別のものになる、というのがこの考え方①です。
実際、”go off”の基本義(または原義)である「離れていく」という意味に当てはめてみても、「電源スイッチが『離れていく』」となりますから、ここから「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」という意味が出てくると言われても、特に不思議ではないですよね。
以上をまとめたのが下図です。赤枠の部分が上記文中の「本当の主語」に相当します。
考え方②: 歴史的に考えよう
こちらは文字通り、各意味の派生時期などから歴史的に考えようというものです。ある意味、考え方①のダメ押し的な位置づけですね。
結論としては、以下の2点から”go off”が「鳴り止む」の意にはならないと考えました。
根拠1.「(アラームなどが)鳴る」の意味の方が「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」の意味よりも先に派生している
根拠2.アラーム類の存在価値から言って、重要なのは「鳴ったかどうか」であり、「鳴り止んだかどうか」はそれに比べればその重要性は劣る
根拠1.「(アラームが)鳴る」の方が先に派生
まず、Google Ngram Viewerを使って、「(アラームなどが)鳴る」の意と「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」の意のうちどちらが先に使われ始めたのかを簡易的に調べると、以下のようになりました。青線の方が「(アラームなどが)鳴る」の意味での例を指し、赤線が「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」での例です(※1)。なお、下の余白がムダに多いのは画像の仕様なのでご了承ください・・・。
実際にヒットした文献を見てみると、「(アラームなどが)鳴る」の例で最も古いものは1810年のThe Repertory of Arts and Manufacturesの一節で、一方「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」の例で最も古いものは1921年のTransactions(第 42~43 巻)となっていました(※2)(※3)。
ただし、語源に詳しいOnline Etymology Dictionaryによれば、「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」の意味で"off"が使われ出したのが1861年とのことなので(以下の引用参照)、「(アラームなどが)鳴る」の意味での使用開始時期も実際はもっと前になると予想されます。
off (prep., adv.)
....(略)... Meaning "not working" is from 1861.
出典:Online Etymology Dictionary
さらに「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」の用法は、考え方①で見たように、「電源スイッチ」のon/offのイメージと強く結びついていることは明らかですよね。
Online Etymology Dictionaryによれば、さきの例文2)で出てきた動詞”switch”が「オン・オフを切り替える」という意味で使われ出したのが実は1850年頃とのことなので(以下の引用参照)、offという単語が電源スイッチのon/offのイメージと結びついたのはこの頃だという推測ができるでしょう。
switch (v.)
...(略)...The meaning "turn (off or on) with a switch device" is first recorded 1853 of trains on tracks, 1881 of electricity, 1932 of radio or (later) television.
出典:Online Etymology Dictionary
実際、”off”が”not working”の意味で使われ始めたのも1861年とのことですから、時期的にもほぼ一致していますよね。
さて、以上のような点から、「(アラームなどが)鳴る」の意味の方が「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」の意味よりも先に派生していると判断することができます。
※1 今回検索した文
各用法1文ずつでは少ないと思い、今回は各2文で調べてみました。青線は”the alarm went off”と”the bell went off”の件数を合計したもので、赤線は”the light went off”と”the device went off”の件数を合計したものです。
※2 実際の検索範囲
これらの文献は検索範囲を1810年以前に設定しないと実際には出てきません。図を掲載するにあたって検索開始年を1810年以前にするとグラフが右寄りになって見にくいため、あえて図では1840年からにしています。
※3 1719年に「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」の例?
"the light went off"で検索すると1719年の文献がヒットしますが、これは「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」の意味ではなく、「(ろうそくなどの火が)消える」の意味である”go out”などと同様の意味で用いられていると思われます。これはOnline Etymology Dictionaryの、1861年から「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」の意味で"off"が使われ出した、という記述からも推測できます。
根拠2.重要なのは「アラームが鳴ったかどうか」
まず、抽象的な言い方になりますが「一度使われ出した意味用法は、それが重要な存在意義を持つ限り、消滅したりあるいは他の意味用法に吸収されたりしないだろう」というような想像は何となくつきますよね。
仮にこのような見方が正しいとすれば、先に派生した「(アラームなどが)鳴る」の意味用法も現にこうして残っているわけですから、重要な存在意義を持っているといえるのではないでしょうか。
実際、アラームなどの警報は緊急事態を知らせることが最も重要な役目であり、これこそが第一の存在意義ですよね。目覚ましをかけるのはそれが鳴った時間に起きる必要があるからであって、その目覚ましが自動的に鳴り止んだ時間は重要ではありませんし、火災報知器などの警報であってもそれは同じです。
重要なのは「鳴ったかどうか」であり、「鳴り止んだかどうか」ではないんです。
単純な話ではありますが、こういった事情もあって「(アラームなどが)鳴る」の意味用法が消失せず、また「(照明などの電気機器が)切れる、止まる」の意味用法に吸収されて「鳴り止んだ」という意味になることもなかったのだと考えることができます。
さて、長くなりましたが、以上が[疑問その2]に対するねこらいたー的説明です。
【補足1】「音を発する」系と「光を消す」系のイメージの整理
1)The alarm clock went off at 7.
「7時に目覚まし時計が鳴った」
3)All the lights suddenly went off.
「全ての照明が突然消えた」
本編での説明で、例文1)における"off"は「発する・発せられる」イメージを持ち、一方例文3)における”off”は「電源がoffになる・電源をoffにする」イメージを持っているということをご紹介しましたが、このイメージの差は意味の似た他の句動詞でもハッキリとしています。
図2を眺めてみると、”out”や”forth”も例文1)の”off”の「放出する」イメージに近いことが分かりますね。なお、前回の説明ではgo offと意味的に対応するものとして"give off"を挙げましたが、正確にはこのように微妙な意味のズレがあります。
さて他方、下の図3を見ると、”off”を含む句動詞は共通して「電源がoffになる・電源をoffにする」イメージを持っていることが分かります。注意点としては、こちらにある”out”は「放出する」イメージではなく、「活動を停止する」あるいは「見えなくなる」イメージを持っていることが挙げられるでしょう。
【補足2】句動詞における副詞と前置詞の関係
※注意※
こちらは当ブログで何度もお話している内容ですので、以前の句動詞解説記事などを読んで下さっている方はスルー推奨です。
前回の最後のところで、「(アラームが)鳴る」の意味で用いるとき”X goes off Y”のように「Xが(Yから)発せされる」という意味関係が隠されている、というような話を書いたと思います。これに関して「副詞であるはずのoffをなぜ前置詞のように扱うのか」という疑問をもった方がいるかもしれませんので、ここではそのように説明した理由をごくカンタンにお話ししておきます。
まず、以下の例文を見てください。
4)He put on his hat.
「彼は帽子を被った」
5)He put his hat on.
「彼は帽子を被った」
一般的な説明では、例文中の句動詞”put on ”は「動詞+副詞」のパターンだといわれていますよね。そして、このパターンではonの位置は目的語と入れ替え可能だということも皆さんご存知かと思います。
ところで、副詞の”on”は「接触」を意味するとされていますが、上記の例文の場合は一体どこに接触しているのでしょうか?
そうです。帽子を被るわけなので、接触しているのは当然「頭」ですよね。つまり、意味関係としては
6)He put his hat on the head.(※4)
となっているわけですが、実際に"the head"に当たる部分を言わないのは「常識」で分かるために省略された形がそのまま定着したからだと考えられます。
このように句動詞で使われる副詞は「前置詞+名詞」の意味が言外に含まれている場合がかなり多いです。この点については、句動詞で使われる多くの副詞には前置詞用法も存在していることも状況証拠となると思います(詳細は以下の記事を参照)。
ただし、この話はあくまでも句動詞で使われる副詞(off, on, across, byなど)に限ったもので、語末が”-ly”で終わるようなごく一般的な副詞は対象外ですのでご注意ください。また、どのような副詞が句動詞で使われるのかについては以下の記事にて詳しくご紹介しましたので、よければご覧ください。
※4 このような言い方は架空のモノ?
6)のような言い方は一応存在します。ただしその場合、「帽子を被った」ではなく文字通り「帽子を頭の上に『置いた』」という解釈になります。
編集後記
いかがだったでしょうか。
今回は”go off”を徹底して解説してみましたが、その中で改めて感じたのは、句動詞を学習する際には副詞・前置詞がやはりカギだということでした。
補足1でも触れましたが、これだけはっきりした使い分けがされていると、イメージというよりもむしろ理屈(しかもかなりキチンとした理屈)で使い分けているのではないかという気がしてきます。皆さんはどう感じたでしょうか。
次回からはメトニミーの話に戻っていきますので、よければご覧ください。
では、また次回!
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